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7月14日今日はここまでにしよう。
七夕の日にスイス入りして8日目の朝をマッターホルンの
麓村ツェルマットで迎えた。明日は帰国のための移動日
だからスイス山岳地帯のトレッキングは今日が最終日だ。
7月14日4時45分。
いつものようにホテルの部屋から薄っすらと白みはじめた
夜空に浮ぶ山陰を捜す。マッターホルンのシルエットが
はっきり見える。今日は快晴だ。
5時20分。
妻と教会近くの橋でマッターホルンに朝陽が当る瞬間を眺める。
今日は天気が良すぎて朝焼けが鮮やかとは言えない。
前兆がないまま、突然マッターホルンのトップがオレンジ色に点灯。
「今日は天候が安定している。早く食事を済ませ、いっぱい歩こう。」
と妻に話し、柱脚部にネズミ返しある古い家屋が並ぶ小道を通り
ホテルへ急いだ。
9時10分。
地下ケーブル、ゴンドラ、ロープウェイを乗り継ぎ、
標高3,103mのロートホルン山頂に到着。
無風・快晴・360度の展望。山頂で絶景を眺めている
人々全員が至福の表情をしている。もちろん我々夫婦も。
トレッキングコースが眼下にジオラマのように広がる。
地図でイメージしていたトレッキングコースなど、
どうでも良くなった。下界に広がる実物のコースを指でなぞり、
歩きたい場所を決めた。出発はブラウヘルト駅(標高2,571m)。
目的地は谷を越えてリッフェルアルプ駅(標高2,211m)。
10時10分。
標高2,571mのブラウヘルト駅発。時間はたっぷりある。
天候も心配ない。ロートホルン山頂でイメージしたコースが
あやふやになり、なんとなくワンちゃん2匹を連れたグループの
後に続いて歩き出した。公園の中を歩くような気軽な気分だ。
圧倒的な眺めとお花畑に酔ったようだった。
10時40分。
標高2,530mシュテリ湖に到着。マッターホルンが写る小さな湖だ。
小魚がいっぱい泳いでいる。わたすげが群生している。
高山植物の花々は進むにつれてにぎやかになってきた。
トレッカーは皆、湖で小休止したのち、折り返すように谷へ下って行った。
我々夫婦だけが、群生した花々に吸い寄せられるように、
眼前の尾根を目指して進む。後で考えたらこの時点で予定のコースを外れていた。
花は更に密度を増してきた。数えきれないほどの種類の花が咲いている。
11時20分。
標高2,680mフルハルプのレストラン付近よりロートホルン山頂で
眺めた尾根に出た。快晴、無風。両側が45度に切り立った痩せ尾根には、
高山植物が咲き乱れている。太陽に向いた花々がここでは私に向いている。
両斜面から上がってくる緩やかな上昇気流が花とハーブの香りを運んでくる。
夢のような香りで満ちている。眼前にはマッターホルン。
後ろには氷河が迫っている。目頭が熱くなった。
12時10分。
標高2,334mグリンジ湖に到着。まだ尾根を歩いた時の気持ちの
高ぶりを残しながら小休止。花を避けながら(実際には不可能だが)
小さな平地に寝そべり、妻に「今日はここまでにしよう。」と呟いた。
まだ体力は十分あり、2時間ほどかけてリッフェルアルプの駅まで
トレッキングするつもりだったが、すでに気持ちが満腹だ。
今日はホテルに早く帰ってゆっくりしよう。という贅沢な気持ちになった。
13時10分。
トレッキングの最終日であることを満足しながら、
標高2,288mスネガのレストランで昼食。ビール・スープ・パン。
相変わらず晴天・微風。マッターホルンを眺めながら8日間を思い出していた。
このようなすばらしい旅を体験できたことを感謝したい。
家族に、そして妻に。ありがとう。
参考:14日当日に書き留めた日記
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※文中にある尾根コースのトレッキングは悪天候時(風・視界・積雪)には、危険が伴います。今回のような条件が揃った時にのみお勧めできるコースです。